第2回 新しい賃貸オフィスビルプロトタイプの実現デザインパートナー 建築家 川島範久氏と中央日本土地建物とのコラボレーション。

Interview

「はたらく」を解き放つオフィスビルブランド「REVZO」。その第1号である「REVZO虎ノ門」は、シリーズ全体をデザイン監修する建築家の川島範久と中央日本土地建物の共同設計により生まれました。当初、新しいオフィスビルにふさわしいファサードデザインを決めるコンペティションで外観を依頼する建築家を選出する予定でしたが、それに参加した川島の提案は外観にとどまらず内部まで踏み込んだ内容で選定の目的が大きく変わります。プロジェクトチームを刺激した川島とともに、「REVZO」のさらなる進化を探ることとなりました。

REVZO デザインパートナー 建築家 川島範久氏
川島範久建築設計事務所 主宰。
1982年神奈川県生まれ。2007年東京大学大学院修士課程修了後、日建設計入社。2014年、佐藤桂火とともにARTENVARCH共同設立。2016年東京大学大学院博士課程修了・博士(工学)取得。ARTENVARCHを解散し、2017年川島範久建築設計事務所設立。日建設計勤務時に《NBF大崎ビル(旧・ソニーシティ大崎ビル)》(2014年)で日本建築学会賞(作品)、ARTENVARCH主宰時に《Diagonal Boxes》(2016年)で第7回サステナブル住宅賞 国土交通大臣賞(最優秀賞)など受賞多数。2012年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員。2014年より東京工業大学助教を経て、2020年より明治大学専任講師。

「ただ自由度が高い空間ではなく、異なる個性をもつ人々に考えや行動のきっかけを与え、寄り添う場を提案しました。建築として個性を追うのではなく、そこで働く人々の背景となり、光を当てる場にしたい。中規模なオフィスビルだからこそ、大規模なオフィスでは実現が難しい住宅のようなスケール感を取り込むことができます。出入りができるバルコニー、開閉ができる窓、状況に応じて自分でコントロールできる空調や照明……住宅では普通の行為でもオフィスビルでは難しいのが現実です。しかしREVZOが目指すものを考えると、これらは不可欠でした」(川島)

最上階に共有スペースを配置。

最上階に配置した共用ラウンジ

またREVZOに豊かな空間性をもたらすのが、最上階にテナント入居者が共有するラウンジ空間を設けたことです。「中規模オフィスビルながら、このような1フロア分のラウンジ空間を設けること。そして、それを通常最も賃料が高く設定される最上階に設けることは不動産としてチャレンジングでした」と、川島とともにREVZOの設計を手掛けた中央日本土地建物の西之原琢也は言います。
このラウンジには、オープンなミーティングスペース、一人でリラックスしながら仕事ができるカフェのようなスペース、クローズドな会議室と多様な場があり、イベントやパーティにも利用できる大きなキッチンを備えます。この共用ラウンジを使用できることは、機能的な付加価値を高めるだけでなく、REVZO内に入居する企業間の交流機会を生み、知的創造性を高めることにも繋がるのではないかと期待します。

基準階プラン図。左は川島が提案したスプリットコア形式プラン。右は従来型のプラン。

2方向の開口部を実現した、スプリットコア形式

既存のオフィスビルとの差別化に向け、中央日本土地建物は社内でプロジェクトチームを作り、不動産側のロジックからだけでなく、ユーザー視点からのニーズの分析を行いました。その結果、管理しやすく画一的な業務スペースを用意するのではなく、企業や個人が自分らしく働くことができるフレキシブルなスペースを用意すること、そして健康でいられる快適な環境とすること、企業同士・個人同士が交流しやすい知的創造の場にすることが必要と考え、それらをコンペ要綱にまとめました。 これを受け川島は、テナントオフィスビルの構成を見直すことから始めます。オフィスビルは通りに面して建てられるとき、その通りに対して最大の間口をとる「ワイド・フロンテージ」のテナント用空間を設け、その背後にコア(エレベーターや廊下、機械室等の共用部)を設けるのが一般的です。ワークプレイスとコアの間には機械室やパイプシャフトが設けられますが、これは共用部からの管理を考えてのこと。そのような従来型テナントオフィスビルの構成に対し、今回はコアを建物の両端に分割した両端コア形式とし、通り側とその反対側に対して2面の開口を持つワークプレイスを持つ構成を提案しました。「両端コア形式」も「2面開口」も、オフィスビルの歴史のなかで決して新しいものではありませんが、1フロア450m2程度の中規模オフィスビルで、あえてこの形式を採用したことがポイントだといいます。

南北の2面に開口部を設けることで、十分な自然光が室内にくまなく行き届く。
室内片側に寄せられた空調。

自然光がくまなく届き、天井の高い開放的な空間

外堀通りに面して立つ「REVZO虎ノ門」は、通りのある北側にメインエントランスをもち、南側に低層の住宅やビルが立ち並ぶ街区を背負います。各フロアの奥行きはおよそ17メートル。この奥行きだと南北の2面に開口部を設けることで、十分な自然光が室内にくまなく行き届き、窓の開閉によって十分な自然換気、通風も可能。また空調機械室をビル側面の東側に設け、エアコンの室内機も天井東側に寄せて設置。これも約17メートルであれば、多くのオフィスで見られる吹き出し口を分散配置した空調計画同等の均質な空調環境を実現できることが流体解析によってわかりました。また東西方向の約17メートルに対して大梁を架けて建物の構造を成立させ、小梁やダクトのない空間を実現。階高4メートルに対して天井高約3.7メートル(梁下2.8メートル)の、非常にすっきりと天井の高い開放的な空間としています。
また「REVZO虎ノ門」は、外堀通り側に2種類の開口部を持ちます。1つは天井まで届く固定窓です。室内の活動が街に表出するようにブラインドではなく透過性のあるカーテンを採用しました。もう1つはバルコニーに面した片引き窓と排煙窓です。開閉可能で外に出ることのできる窓です。窓の先には奥行き2メートルのバルコニーがあり、その先端には植栽帯があります。

落下防止用のメッシュはやがて植物のツタが絡むことを想定。
緊急時には避難経路として、通常時は業務のあいだに息抜きをする場としてテナントが利用できる。

「たとえばベランダの植物が風に揺らぐと、それが影となってカーテンに映る。それを見て、思わず外に出て気分を変えようと思う人もいるでしょう。風、光、空気と、その日の気候が感じられるもの。それらで建築を包み込みたいと考えました。たとえば窓辺では照明がなくても仕事ができるほどの明るさを確保しています。全面にガラスを用いたビルは多いですが、それが中で働く人々に作用しないことがほとんど。窓の近くやバルコニーに人の居場所を作りたいと考えました。南側の窓は腰壁を設け、北側とは違うシーンを作ることができます。机を置いて打ち合わせをしても、腰壁を背に執務室を作ってもいいように思います」(川島)

各階のバルコニーには、ブルーベリーやレモン、ローズマリーなど、エタブルな植物が植えられている。

日常だからこそ、時間や四季の変化を感じられる場所に

川島はオフィスビルという場所は日常であると言います。
「日常だからこそ、時間を感じる場所であってほしい。そのひとつとして緑を多く採用しています。四季の変化が感じられ、葉の色が変わり、実が付き、匂いが香る。それはここで働く人々が積極的に関わりたくなるものかと思います。野山のような草花を植え、変化のある植栽としました。日々発見があることで、時間軸のある場所になります」
これを受け、西之原は次のように振り返ります。「バルコニーの緑化は管理上の難しさがあれど、魅力を感じます。私たちもみな、各々の理想を言葉にし、形にしていきたいとプロジェクトを進めました。私どものこれまでの経験の積み上げはもちろん大切な財産ですが、時代の変化のなかで限界を感じる部分があったのも事実です。川島さんの参加でREVZOのコンセプトはさらなるブレイクスルーを実現することができました。ユーザーの声を拾いながら形にし、画期的なものに。一見シンプルですが、非常に実験的な建築となっています」

中央日本土地建物(株) 設計担当 西之原琢也
REVZOブラントの立上げに携わり、REVZO虎ノ門の企画・設計監理を担当。本社ビル・賃貸オフィスビルを中心に多数の設計監理に携わっている。
日中、空が映り込む外壁。
日没後の外観。

入居する企業の姿が窓越しに届く。額縁のような存在。

こうした思いは建築の佇まいにも表れます。外堀通りからは各フロアに入居する企業の姿が窓越しに街へ届き、その積み重なりが建物の表情を作る。川島はそのようなファサードを、「額縁のような存在でありながら、REVZOらしいイメージも表現できるような存在を目指しました」といいます。外装材は、通り側に明るい印象をもつアルミパネル、側面は押出成形セメント板を使います。塗装を明るく温かみのある白色を基調とすることで、爽やかな印象を与えます。
「外装材は光を受けて温かみを感じるもので、空が映り込みます。REVZOは虎ノ門をはじめ、さまざまな顔のビルが建ち並ぶオフィス街に多く展開されます。しっかりとひとつの顔をもったビルを目指しつつ、強烈な個性を打ち出すことなく、さまざまなビルの個性を繋ぐような調和の役割を考えました」(川島)

自然素材を基調とした共有部のインテリア

1Fエントランス部分
エレベーターホール
階段踊り場部分

自然素材を基調としたインテリア

エントランス前の軒下を植栽で埋め尽くし、エントランス内部まで外部の植栽をわずかに引き込み、土塗りの壁とディスプレイを設置します。ビルの内外を問わずすべての人に楽しめる公共性を目指しました。エントランス、階段とエレベーターに続くホール、ラウンジと共用部のインテリアは自然素材を基調とし、温かみのある空間を目指しました。アートウォールを採用した自然光の入る明るい階段は、思わず昇りたくなる階段を目指したものです。室内階段および屋外階段ともに日常的に使用できるようにすることで、非常時の避難経路を自然と利用者に伝えます。トイレもテナント専有部に入れ、水回りは入居企業の考え方によって自由に変更できるものとしました。
「アーシー(earthy)な色づかい、白や中間色を採用し、モダンなデザインを採用しています。雨の降る月曜の朝に出社をしても気持ちよさがある場所。植栽も装飾ではなく、人の心に働きかける能動的なものにしたいと考えたのです。結果、シンプルだけど有機的な要素が多くなりました」(川島)


インテリアプランの想像力を刺激するさりげない革新。新提案の「日本型スケルトン」とは?

またテナント各室においても新しい提案を行いました。通常のオフィスビルでは未入居時でも、OAフロア上にタイルカーペットを敷き、システム天井を配した状態にします。しかし入居者が内装工事を行う場合、それらのタイルカーペットやシステム天井は契約後に剥がして廃棄され、空調や照明なども変更工事を行うことも多々あります。しかし退去時には、それらを復元する原状復帰が求められる。こうした行為は環境負荷に加え、テナントのコスト負担も大きく、けして効率的ではありません。川島は建築の構造や設備の巧みな配置により小梁やダクトを省略し、天井には白色に塗装したデッキプレートのみを設置することで機能を担保させた、『日本型スケルトン』を提案しました。テナントに合わせた自由なレイアウトがしやすく、インテリアを作り込むうえで想像力を刺激し、初期コストをおさえ、すぐに利用できる空間となりました。
「いわゆるスケルトン貸であっても、賃貸オフィスビルの貸方としては一般的ではありません。今回考えた『日本型スケルトン』は一見、特殊に見えますが、実は一般的なグリッド天井のオフィスビルと同等のフレキシビリティを持った計画です。入居者が自由なレイアウトで自分好みのオフィスをデザインできるよう、詳細を検討し徹底的にこだわりました。たとえば天井部分には、インサート(建築物や構造物、機器などに埋め込まれる雌ねじの総称)をあらかじめ仕込んでおくことにより、入居者は躯体に傷をつけることなく、自由に天井や間仕切り壁を構築することが出来ます。また空調は既存の空調機にダクトを取り付け、延長することで、簡単に個室専用の空調を行うことが出来ます。照明についてもレイアウトに合わせて変更が容易な照明制御システムを取り入れることで照明区分の変更が一般的なビルに比べて簡単にできるように工夫しました。入居者がオフィス移転を行うにあたり、費用的な負担の大きいB工事(借主の希望でビルの施設や仕様を変更する工事で、費用負担は借主となる)や原状回復にかかる負担を極力少なくし、自由なレイアウトを行ってほしいという思いで執務スペースの詳細を詰めていきました」(西之原)


気持ちよく働ける場所を目指す「REVZOシリーズ」

「ただはたらく場所ではなく、目指すのは気持ちよくはたらける場所です。『REVZO虎ノ門』はシリーズ第1号のため、本来であればプロトタイプとして今後もスタンダードな要素を設定していくもの。しかし今回はスタンダードの構成を考えました。この構成を受け、また新しい声が出てくるでしょう。さらに改善を図る部分も見えてくるかもしれません。ただし基準を設けることで、これからの判断の軸が見えてきます。竣工直前にCOVID-19の感染が拡大し、いま私たちははたらき方を見直す渦中にあります。自然の光と風が溢れ、窓を自ら開けることができ、緑あるバルコニーに出る。それを実現できるオフィスは今後、需要が高まるのかもしれません。場所を問わずに仕事ができる時代となり、オフィスにはさらなる価値と意味が必要です。個人ではまかなえない機能、リラックスして働けるラウンジ空間などはますます求められます。大企業も分散化し、小さなオフィスを求める傾向も高まるのではないでしょうか。このように、中規模オフィスビルの新しい可能性はますます見直されていくと考えられます」(川島)